梅雨に道や草木を濡らす雨から、そして晴れ間の突き刺すような日差しから身を守る傘は、初夏から夏にかけてのファッションの一部とすら言えます。良い傘を使うことは、季節を粋に過ごすことにも繋がってくるということに、古くから日本人は気づいていたのかもしれないと、今回ご紹介する浅草の傘のお店たちから教えられます。
浅草で傘をお土産に。
日本の傘は人気がある・・・と言う話を聞いたことがあるかもしれません。
海外の方が日本に来てお土産に買っていかれる姿をよく見かけます。その理由は日本に置ける傘の品質の良さと種類の多さ。
例えばヨーロッパでは、本来傘は貴族がさす日傘のイメージが強く、一般に浸透するのに時間がかかったそう。また、日本のようにジメジメしていないため、多少濡れても乾いてしまうので、傘をささない人も多いのです。
日本人の多くが傘を愛用しているからこそ、その種類も丈夫さも発展していったといえます。せっかく傘が発展している国ですから、少し良質な傘や、遊び心の傘を持ってみるのも趣がありますよね。
浅草と言う場所は海外の観光客も多いので、日本らしい傘が買える場所や、デザインに優れた傘が豊富!お土産にもおすすめな傘屋さんを、一度訪れてみてはいかがでしょうか。
デザイン豊富な和傘なら、北斎グラフィック浅草新仲見世店
仲見世を少し歩き、舟和仲見世1号店で左に折れ、ちょっと新仲見世通りに入った宮原ビルの1階に、北斎グラフィック浅草新仲見世店はあります。
近くには前川印傳などの工芸店も並び、仲見世の渋い工芸品エリアとでもいいましょうか。
北斎グラフィックの特徴は、なんといってもデザインの豊富な伝統の和傘。16本の骨がある和傘、そして24本の骨がある蛇の目傘等、伝統的な和傘が並びます。
驚くべきはその種類の豊富さで、手毬や家紋などの伝統的な和柄をモチーフにしたものから、宇宙やスイカなど、洋傘と比べてもちょっと珍しいようなダイナミックな絵柄まで、種類豊富な傘が並びます。これだけ多くの種類があるのに、全て職人さんの手作りと言うのが、やはり和傘の魅力です。
口コミを見ても、
「北斎番傘赤¥18900を購入。和服で出かけるときはいつもこれを使っています。ひらくときの、竹の骨組みが、円柱状から円すい状に変わっていくメカニカルな魅力もたまりません!コスプレ趣味のある友人から、貸してほしいといわれることもしばしば。これからも大切に使っていきたい逸品ですね。」
「日本舞踊などに使われる、舞妓傘・鶴¥8900を、日傘として使うために購入しました。
生地1面の鶴の模様のかわいさもさることながら、内側の骨組みに施された色とりどりの飾り糸が、手まりのように見える内側は本当にうっとりとする芸術品ですね。この傘を使っているときに外国の人に話しかけられたこともあります。それだけ、綺麗なんですね。」
と、和傘の虜になるファンは多いのです。
お土産におすすめな伝統傘なら、オカダヤ
仲見世を直進して、左手の列のお店に注目。伝法院も近くなってきたところに、人形焼きの三鳩堂、日本画や仏像の三美堂、雷おこしのなかつかときて、オカダヤ仲見世店にいよいよ到着です。
オカダヤが取り扱う和傘の種類は豊富。
例えば番傘。番傘とは、江戸時代から普及した傘で、傘の骨組に、油紙という油を塗った和紙を貼り付けたもの。色合いも伝統的な柄が多く、和服によく似合います。
口コミを見ても、
「浅黄色が目に優しい”蛇の目傘”¥16000は、すっかり普段使いのお供。でも最近、半透明の姿が幻想的な”絹張り”の日傘¥35000も気になってます。傘の骨組の間から、空や雲がうっすら見えるなんてすてきですよね。」
と、思わず目移りしてしまうことがわかります。
番傘や蛇の目傘は、無地の”上”が¥9000。
ほかにも、¥3000ほどからお求めいただける、色とりどりの”踊り傘”もまた魅力的。舞をした際に傘に動きが出るように、渦巻き柄が施されたものが多く、色合いもカラフルで、見ているだけでも飽きません。その他にも屋外のレジャーに和の空間を作り出してくれる、据え付け式の”野立て傘”など、シーンに合わせた様々な和傘の世界が広がります。
傘は降る雨から身を守るばかりではなく、視界がほどよく遮られる最小単位の移動個室としても魅力あるものです。
番傘の紙の上に雨粒がパタパタと小気味よい音を立てるようすと、精緻なつくりの骨組みが織り成すその小さくも美しい半径数十センチの空間は、あなたの心を優しく和の精神へといざなってくれるのです。
その効果は、番傘を差してそぞろ歩く浅草の町の思い出として、あなたの脳裏へとしまいこまれ、浅草を離れてさまざまな土地で番傘を開いたときにも、その思い出をよみがえらせてくれるのではないでしょうか。
アイデア性のある普段使いの傘なら、浅草かさぐるま
仲見世を直進して、伝法院通りを直行する十字路。伝法陰の反対側の角に、浅草かさぐるまは可愛らしくたたずんでいます。ちょうど浅草提灯もなかのお店の裏側あたりですね。
浅草かさぐるまの魅力は、ファンシーで可愛らしい傘たちに、様々な機能的なアイデアが凝らされているという二面性。かわいい顔をした実力者・・・といったところでしょうか?口コミでも、
「最近、鞄のなかに忍ばせているのが、浅草かさぐるまで購入した、”柄が浮き出る折り畳み傘”¥1620。シックな無地の折り畳み傘に一見見えますが、雨にぬれるとバラの花の模様が浮き出てくるんです。まるで恵みの雨を受けてすくすくと花が育っていくようで、風流で気に入っています。」
と、便利ななかにもオシャレな遊び心がうかがえますね。
ほかにも、生地の裏面にシルバーコーティングが施されて、強力なUVカット能力も併せ持つ、”晴雨兼用折り畳み傘”¥1080〜¥2160など、折り畳み傘の奥深さに楽しくなっちゃうお店です。
皇室御用達の傘を作る、前原光栄商店
浅草の周辺、特に「徒蔵エリア」と呼ばれる御徒町から蔵前の周辺は、昔ながらの物作りの街で、職人さんが多いエリア。その場所で、昭和23年から営業する傘の専門店があります。
浅草から隅田川を少し下り、厨橋から続く春日通りを御徒町方面へ西に少し進むと、三筋に到着。春日通りに直行する孫三通りの反対側に曲がり、少し進むと前原光栄商店です。
このお店は、最高峰のハンドメイド洋傘を販売しているところに特徴があります。1つ1つ考えぬかれた傘は、織るところから始める生地、開き方や持った時の感覚を計算しつくされた職人による骨組み、1つ1つ曲げる手に馴染む持ち手・・・
このこだわりの傘は、皇室にも選ばれ、一流百貨店にも卸され、長く愛され続けています。
お客様の声によると、
「趣味でビジュアル系バンドをやっていることもあり、耽美なファッションにこだわりのある私。傘はなかなか気に入ったものがなくて妥協する場合が多かったのですが、納得の一本がとうとうここ浅草で見つかりました。
それが前原光栄商店の”SLASH16-LONG-CARBON”¥36720。洋傘はコウモリという通称もありますが、さしずめこの一本は色香を纏いつつ闇に咲くコウモリのプリンスとも言うべき美しさ。未来的なカーボンの骨と、トラディショナルな樫の中棒の融合、そして職人技によってピンと縫い合わされた生地は、ダークな外側と、人目に付かない内側のパステルカラーのツートン。全身像、細部、どこを見てもため息が出る1本です。」
とのこと。
女性用の傘も、古い映画や劇、少女マンガの世界から現実に降り立ったかの如きデザインと質感で、言うならば”新品のアンティーク”のよう。
こんなあでやかな傘を使える女性が、男性の目から見ても羨ましいほどです。生地は出来合いではなく糸から機を織り、木材も職人が一本ずつ熱で曲げる。失われつつあるこれらの職人技によって現代に守られる美の世界は、一度店舗にお越しいただいてご覧になる価値ありです。
山宮商店、明治から続く和傘の専門店
明治38年から続く山宮商店、現在の店主は三代目となります。伝統的な和傘を今に伝えつつ、街の傘屋として今も親しまれているお店です。山宮商店があるのは浅草の合羽橋。業務用の商品が多く並ぶキッチン用品店の一角にあります。揃えている傘は、番傘、蛇の目傘などの日本傘。和傘は、昔からあるものの、保存が非常に難しいため、職人さんの存在が非常に大切。そんな日本の伝統技術を今に伝えるお店です。
以上、素敵な浅草にある傘の世界、いかがでしたでしょう?
…浮世絵の世界は世界中のファンを魅了していますが、その理由の一つに、人の営みと自然が切り離されることなく溶け合って描かれていることがあげられるでしょう。
座って休む町人の傍らには松の木が生え、職業人が汗を流す上空では鳶が悠然と飛ぶ。人間とは独立して生きているのではなく、自然の風景の一部であり、自然が失われれば自らも消える。そんなメッセージが人の心を打つのです。ここ浅草で販売されている、職人の手によって魂を吹き込まれるこだわりの傘を使うことも、そんな江戸時代の人々の自然観に浸る一つの方法ではないでしょうか。
ハンドメイドの美しい傘を差して歩く人が味わう風景は、人間が溶け込む自然の仲間たち・・アジサイの葉に雨宿りするカエルやカタツムリ、軒先や木陰で雨宿りをする小鳥や猫・・彼らが見ている風景に近いものになるような気がします。
美しい傘を片手に歩けば、雨の日の世界が少しいつもと違って見えるはず。そんな傘に出会いに浅草を訪れてみてはいかがでしょう。